参考書片手に献血を

無性に血を見たくなったので血抜きと資格勉強を兼ねて献血に赴いた。高校時代の200mlが最後の献血である私は、やや緊張した面持ちで献血センターに向かう。

自動ドアの向こうにはカフェのような落ち着いた空間が広がっている。病院のように無機質な場所を想定していた私は、アホ面を引っ提げて受付へ歩みを進めた。「400mlですか? 成分献血ですか?」優しく問いかける職員、「400mlって出来ますか?」質問に質問で返す無能。「体重足りてますかねぇ、量ってみましょうか。」「あっ、はい。」多少の語彙力不足は優しさがカバーしてくれるのだろう。

ピッ!と量り終えた体重はギリギリ50kg。「服の重さもありますし、ちょっと400mlは無理そうですね、1時間ほどかかりますが成分献血にしましょう。お時間大丈夫ですか?」苦笑気味に問いかける。「大丈夫ですよ、参考書も持ってきてるんで準備OKです。」50kgに達しない体重に焦りを覚えながらも軽い調子で応答する。確認事項をとんとん拍子で進め、番号を呼ばれるまで休憩となった。カルシウムバー2本と熱めのミルクティーを添え、「献血前に必ず食べてください。お飲み物も飲み干せるといいです。」優しい表情と裏腹に言葉に力がこもる職員。猫舌に鞭を入れながらミルクティーを飲み干し、ツイートをする。

(画像にセンスの欠片も見当たらない)

カルシウムバーを咀嚼していると、自分の順番が回ってきた。案内された椅子は柔らかく、なかなか座り心地が良い。一通りの説明を受け、注射針を刺す。「普通の人は見ないほうが良いですよ」という忠告を他所に、舐めるように患部を見つめる私。興味本位で腕を動かそうとするが、私の奇行を職員は見逃さない。「動かさないでくださいねぇ。」舌打ちを飲み込み、しぶしぶ参考書を開く。途中、血が巡るよう腹部にお湯の入った輸液バッグを置かれた。先に済ませたはずだが、開始10分にしてお手洗いに行きたい。我慢の50分が始まる。気晴らしにテレビを点けると、某アイドルの辞表に関するニュースで盛り上がっている。他人の生き方にとやかく言うつもりも無いため、この件をネタに綴りたい気持ちをそっと胸にしまう。テレビと尿意に現を抜かしていると思われるだろうが、怠惰を貪る自室よりかは効率的な勉強が行えていると弁明しておこう。

ページめくりに苦労しながらも参考書から要点を抽出していると、献血の終わりを知らされた。注射針を抜く際も凝視してやろうと思ったが、患部には保温用のタオル、職員による腕の固定が入り断念。手足のしびれを確認した後、休憩室に案内される。集中力も切れ、腑抜けた顔のまま呟く私。

 最後にもう一度、献血の種類や注意についての説明が入り、献血は無事終了した。どうやら成分献血は2週に1回出来るらしい。家にいても寝るかPCの前に陣取る私には、とても都合の良い勉強時間に思える。職員に心配されながらも早々に献血センターを後にし、良いブログのネタが来たと喜びながら家路についた。繁華街では18時を示す音楽がしっとりと流れている。

 

 

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